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牝獣の哭く夜
第11章 夜景レストラン
「でも、驚きました。分かってもらえたのは、はじめてだ」

 ワイングラスを置くと、諏訪は大袈裟な身振りで口上をはじめた。

「このサラダは先祖伝来のもの。
 曾祖父から祖父へ、祖父から父へ。父からわたしへ。
 スパイスはインドから……ハーブはアフリカ……パテはフランス。
 ……そしてチーズはイターリアから」

 おどけた顔で眼を剥き、いいかげんなフランス語やイタリア語を混ぜながら、それぞれの国の人を戯画する諏訪に、美貴は吹き出す。

「これらを混ぜて、ミックスミックス、トストス。ミックスミックス、トストス――」

「お願い、もうやめて……お腹が痛い」

 諏訪のモノ真似に、美貴は脇腹を押さえ、鼻の頭に皺をよせて笑いこけた。
 こんなに腹の底から笑ったのは何年ぶりだろう。

 諏訪はサラダをかきまぜる仕草をやめ、表情を元に戻す。
 頭をかいて、

「いや、失礼。僕もこんなことをやったのは、はじめてです。
 はしゃぎ過ぎました」


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