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滲む墨痕
第3章 雪泥鴻爪
潤は、左の足首を足枷のように囲むショーツを掴んだ。右の足を通して引き上げると、秘部に張りつく湿り気に不快感を覚えながらニットを胸の前で握りしめて立ち上がった。
バッグを見下ろし立ち尽くす後ろ姿にそっと近づく。その名を口にしようと唇をひらいたとき、広い背中越しに「僕は」と静かな声がした。
「救うことはできない。壊すことしか……」
絞り出すように発した藤田がゆっくりと振り向く。彼は翳(かげ)りのある目を落とし、潤の露出した細い肩に指を這わせた。
腕を撫で下ろされれば、くすぶる生乾きの身体にふたたび火が灯る。潤が首をすくめると、彼はそれ以上指を動かすことなく手を離した。
そのとき、バッグがまた唸りはじめた。無機質な振動音が辺りに響く。
「出たほうがいい」
藤田はそう言うと、わずかに目を細めた。彼は笑みを浮かべている。たまらなく優しく、哀しい笑みを。