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滲む墨痕
第3章 雪泥鴻爪
「生徒とその親御さんからの頂きものですが、たくさんあって僕一人では食べきれないので手伝ってくれませんか」
「あ……はい」
「手作りが嫌でなければ」
「大丈夫です」
「そう、よかった。僕も一つ食べましたが美味しかったですよ」
近づいてきた藤田がそれを差し出す。ピンクのリボンが可愛らしい。潤が両手でそっと受け取ると、彼は口角を上げた。
生徒の親というのは母親だろうか、と潤は考えた。自身の記憶を辿り、よく菓子折りを持たされて習い事の教室に行ったことを思い出す。
「親子で一緒に作ったのでしょうか」
「ああ、まあそのようです」
「仲良しなのでしょうね」
笑顔を繕い、かすかに羨望の念を込めて言うと、なんともいえない微笑を返された。その意図はわからないが、どこか切なさを滲ませる笑みだった。