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滲む墨痕
第3章 雪泥鴻爪
そのとき、温泉街へ続く道路の向こうから雪を踏む足音が聞こえ、人影が近づいてきた。
「潤さん……!」
いつもより焦燥感を増したその冷たい声が心臓に早鐘を打たせる。このまま鼓動が暴走して突然止まってしまうのではないかと思い、潤は胸にこぶしを押しつけた。
街灯が浮かび上がらせるのは、着物の上に羽織を着た女将が草履で小走りに向かってくる姿。薄く積もった雪に足を取られてよろける彼女を見て、潤はとっさに駆け寄った。手を差し伸べようとする気配を感じ取ったのか、女将はすかさず体勢を立て直し、ふだんどおりの立ち姿で静かに佇む。
潤は、白い息が女将に届かない距離で立ち止まった。真っ直ぐに送られてくる鋭い視線は乱れたまとめ髪から徐々に下がり、やがて左手に収まるラッピング袋に留められた。