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滲む墨痕
第3章 雪泥鴻爪
穢らわしいものでも見るかのようなその目は、ため息とともに失望の色を濃くした。
「たかがこんなもの、疑いの種にもならないと思っているのでしょうね」
「……っ」
「どこで手に入れたか尋ねられたら、あなた説明できるの」
「そ、それは……」
「なんと軽率な」
その一言に心臓を突き刺されて口を閉ざすと、女将のひややかな視線はふと潤の後方に移された。
「それともあの方、わざと……」
疑念を孕んだその呟きに、潤ははっとして振り向いた。十数メートル先には黒いSUVが変わらず同じ位置にある。運転席の様子は暗くてよく見えない。
瞬間、ドアがひらき、藤田がその姿を現した。
潤はとっさに女将に向き直る。女将は厳しい表情で藤田を見据えていた。ふたたび後ろへ視線を戻した潤の目に入ったのは、薄暗闇の中にある長身が深く一礼する瞬間だった。