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滲む墨痕
第4章 一日千秋
正面にある障子を開ければ、八畳の和室に配置されたこたつとテレビが目に入る。潤はバッグを置くとこたつの電源を入れた。
部屋の奥に進んで続き間の襖を開け、壁際に鏡台と箪笥(たんす)だけが並ぶ簡素な寝室に足を踏み入れる。ダウンジャケットを脱いで壁掛けハンガーに掛けると、押入れに歩み寄り、襖を開けた。
仕切りの上に布団類、下には夫婦の少ない荷物を整理して置いてある。東京を離れるときに、服やバッグ、アクセサリーや雑貨などの多くを処分した。もともとたくさん持っているほうではなかったが、それでもいざ最小限に減らすとなると不必要な物の多さに驚くものだ。
潤はその場にしゃがむと、いくつかのバッグの中から黒い大きめのクラッチバッグを手に取った。そして収納ケースの裏側に手を伸ばし、壁との隙間に隠すようにして挟み込んである冊子を抜き取った。