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滲む墨痕
第4章 一日千秋
書道バッグから、折りたたまれた新聞紙――これも美代子が気を利かせて自宅から持ってきてくれたものだ――を取り出してテーブルの上に広げ、書いたばかりの書を乾かすためそこに置いておく。新しい半紙を用意すると、潤は筆を手にした。
法帖の筆跡を熟視し、書く。その間も心臓は内側から胸を殴ってくる。一文字書き終えるたびにテーブルの端の携帯電話を気にしながら、潤は手を動かす。
メッセージを知らせる短い振動が、鋭く響いた。びくりと肩が震え、紙を滑る筆にそれが伝わり線が歪む。だが手を止めずに四文字しっかりと書き終えてから、潤は静かに筆を置いた。
携帯を掴み、送信者が藤田であることを確認し、一つ息を吐いて、おそるおそるメッセージをひらく。
「……ん?」
画面に映し出されたのは不可解な文章だった。
“点は墜石の如く、画は夏雲の如く、鉤は屈金の如く、戈は発弩の如し”