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滲む墨痕
第4章 一日千秋
潤は、入力した文字を一つずつ消していった。目の前にある自分の書に目をやってから、ふたたび画面に視線を落とす。
“多寳塔碑を臨書しています。でも思うように書けません。どうすればいいですか。”
そう入力しなおし、送信した。藤田のメッセージの内容を完全に無視しているが、潤が今もっとも彼に伝えたいことはそれだった。
ふと、部屋の中の明るさが頼りなくなった。空に雲がかかったのか、窓から射し込む陽の光が弱くなったのだ。潤はこたつから身を引いて立ち上がり、照明の引き紐を引いて電気をつけた。
こたつに入り、しばらくじっとして待つも返信はない。唐突すぎたかもしれないと不安になる。気が急いて、しかしそれを紛らわす術もなく、潤は臨書の続きをすることにした。