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滲む墨痕
第4章 一日千秋
ぞわり、甦る、背中を這うぬくもり。背骨を伝い上がり、じん、と脳に甘い痺れを覚えさせる。たくましい腕の感触と耳にかかる熱い吐息を想像しながら、潤は片腕で自身をきつく抱きしめた。
『あなたの身体は柔らかくて、少し冷たい』
耳に押し当てた受話口から吐き出される低音が、鼓膜を揺らし、意識をじわりと湿らせる。
『ですが、触れ合っているうちに体温が上がりはじめ、上品な香りを漂わせます』
「そ、そうでしょうか……」
『うん。艶のある匂いがします。全身嗅ぎまわしたくなるくらい』
「やっ、いやです」
小さく叫べば、くつくつと笑う声が聞こえる。
不意に素肌を這いまわる高い鼻が想像され、あの夜の、胸の先端に注がれた強い視線を思い出さずにはいられなかった。急激に襲ってきた羞恥心に、潤は思わず胸のふくらみにこぶしを押しつけた。