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滲む墨痕
第2章 顔筋柳骨
「あっ、待ってください」
「え?」
「墨……磨ってみたいです。自分で」
勇気を出して言ってみると、上げていた腰を下ろした藤田がすまなそうに笑った。やはり彼は市販の墨液を使うのではなく、墨を磨るところからレッスンを始めようとしてくれていたのだ。
「やり方がわからないので教えてくださいますか、先生」
「もちろんです。少し時間はかかりますが」
「構いません」
「そう。よかった」
藤田は目尻に深く皺を刻み、「水、僕が入れてきちゃいますね」と言いながら水滴を手にして部屋を出ていった。見た目はあきらかに誠二郎より年上だが、その無邪気な態度は少年のようである。
それまで抱えていた不安や緊張が薄れたことに安堵して、桐箱から半紙を出そうとして下を向いたとき、長いストレートの黒髪が顔にかかり視界を覆った。
潤は髪を結ってくるのを忘れていたことを思い出し、バッグに歩み寄ると髪留めクリップが入っていないか確かめる。内側のポケットにそれを見つけ、息を吐いた。