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滲む墨痕
第4章 一日千秋
脇から離れた筆の陰獣は、硯に戻ってその毛に墨をつけ直すと、ふたたび胸に舞い降りた。
先端の周りを絶妙な力加減でくるくると円を描く。そのたびに、ぞわり、ぞわり、と肌が反応する。乳輪の大きさを強調するかのように何度も墨が重ねられ、その色を濃くしてゆくと、右、左と二つの黒い丸が描かれた胸はひどく滑稽な模様に見えた。
不意に、穂先がかすかに先端の尖りをかすめ、潤は息を呑んだ。悦びを堪えているのではない。羞恥と嫌悪に耐えているのだ。
「あいつだろう。もう寝たのか」
「……っ」
目を見ひらいた潤は、なに一つ悟られまいと歯を食いしばる。ただの勘違いであると思わせなければならない。だが誠二郎は、なにもかも知っているのだと言わんばかりに冷笑を浮かべる。
「ここに、突っ込まれたのか……あいつの……」
股の間に無理やり差し込んできた膝を突き上げながら、彼は品のない言葉を吐いた。