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滲む墨痕
第4章 一日千秋
ふと伏せられた長い睫毛の先にあるのは、脱ぎ散らかされた服と、畳に作られた淫猥な染み。その意味を理解した女はその端麗な顔をかすかにこわばらせ、思い出したように鼻から空気を吸い、なにかの匂いに鼻腔を刺激されたのか口元を手で覆った。
誠二郎は、今さらなんだというように尊大に構えた。ここでなにが行われていたか彼女ならすぐにわかったはずである。たった今気づいたふりをしているだけだ。
案の定、女は小さく噴き出した。涼しげに目を細め、ひかえめに「うふふ」と笑いはじめる。誠二郎が眉間に皺を寄せ不快感を露わにすると、彼女はすまなそうに肩をすくめ、薄い唇をひらいた。
「若奥様はお風呂でしょう。墨は落ちにくいから時間がかかりそうですね。お手伝いに行きましょうか」
やはり、と誠二郎は思った。羽織一枚で母屋へ向かう潤の頬が墨で汚れているのを、この女はこっそり物陰から見ていたに違いない。