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滲む墨痕
第4章 一日千秋

「必要ありません。これ以上妻に余計なことはしないでください」

 部外者を突き放すようにあえて冷たく言うと、哀しげな表情を返される。

「若旦那様のご負担を減らそうと思ってしてきたことですのに」
「…………」
「たまにはゆっくりと休まれたらいかがです。お疲れでしょう」
「その話し方、そろそろやめてくれませんか。わざとらしい」

 うんざりして吐き捨てれば、女は誠二郎の心情に反してさわやかな笑みを浮かべた。

「なんだ、もうすっかり慣れたのかと思ったわ」
「はあ……美代子さん」
「ふふ、ごめんなさい。ちょっと意地悪しちゃった」

 状況にそぐわない美代子の呑気な様子に苛立ちを覚え、だがこれは八つ当たりだと自覚し、誠二郎はうなだれた。

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