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滲む墨痕
第2章 顔筋柳骨
その話に感心して頷く潤に、藤田は肩をすくめて苦笑する。
「人によっては、僕のやり方はちょっと面倒くさいと思うかもしれません」
「そんなことありません。大切な時間だと思います」
「ははは、ありがとう。幸い子供たちにも好評で、自分を見つめ直せるとか、疲れた心が癒されるなんて大人びたことを言う子もいます」
「ふふっ」
思わず肩を震わせて笑うと、おのずと緊張がほぐれていった。
「では書いてみましょうか」
「はい」
ついに筆を使って字を書くときが来た。半紙の表面を触って、よりなめらかな質感のほうを表にして下敷きの上に置く。紙の上部に文鎮を乗せれば準備完了だ。
「なにか書きたい字はありますか」
「書きたい字。ええと……」
「なんでもいいですよ。なければこちらで指定します」
「うーん」
そっと目を閉じ、わずかに首をかしげて考える。静かな暗い視界の中である四字熟語が浮かび上がり、潤はまぶたを開けてはっと藤田に顔を向けた。