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滲む墨痕
第2章 顔筋柳骨

 そこには、唇を薄くひらいてこちらを見つめる、呆けたような男の顔があった。潤が目を閉じてから一瞬で誰かと入れ替わってしまったのではないかと思うほど、藤田の空気は艶を纏っている。
 自分でもその変化に気づいたのか、彼はそっと視線を外した。

「ああ、っと、思い浮かびましたか」
「は、はい。……初志貫徹」

 その言葉を口に出すと、今の自分にはあまりにもハードルが高い気がして恥ずかしくなった。

「難しくて書けないかもしれませんが」

 呟いてわずかに俯く潤とは反対に、藤田は興味深げな視線をよこす。

「その言葉に深い思い入れが?」
「いえ、そういうわけでもないのですが……。言葉の意味を知ったのが小学生のときで、子供ながらにそんな生き方に憧れていました。それで、学校の書き初め大会で好きな言葉を書くことになって」
「書いたのですね」
「はい。大きな字で、堂々と。そのときの、心から満足できた記憶がずっと残っているんです」

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