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滲む墨痕
第4章 一日千秋
絞ったハンカチを広げて整えながら、美代子がなに食わぬ顔でこちらを見つめてくる。そうして、ふっ、と静かに笑いを漏らした。
「私を無視したっていいのに。昔と変わらないのね」
断りきれないとわかっていてこういうことを言うのだ、この女は。不快に思いながらも、誠二郎は美代子を放っておくことができない。まるで呪縛されたかのように。そしてそれを解くことができるも、この女しかいないのだ。
「美代子さんは昔より意地が悪くなった」
「強くなったと言って」
「……智くんのために?」
一人息子の名前を出されて現実に引き戻されたのか、美代子がふと手を止めた。その顔はこわばり、やがて哀しげに微苦笑を浮かべ、目を伏せる。
思い出したくない過去の扉をこじ開けられる痛みを、この女も味わえばよい。そんな誠二郎の真情に気づいたように、美代子がひかえめな視線をよこした。
「今でも恨んでいるのね。私を」