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滲む墨痕
第4章 一日千秋
空いたスペースに桶を置き膝を下ろした美代子は、色っぽい仕草で左の振りに右手を忍ばせ、袂から白いハンカチを取り出した。
「掃除でも始めるつもりですか」
誠二郎の問いに微笑を返し、おもむろにハンカチを広げる。大判でレース仕立てのそれの角には、一箇所だけ小さく紫苑(しおん)色の花の刺繍が入っている。
「じゃあ、脱いで」
淡白な声で、彼女はそう言った。
「は?」
「身体を拭いてあげる。母屋のお風呂は潤ちゃんがいるから使えないし、汗を流さないと着替えたときに気持ち悪いでしょう」
「……平気です。もう乾いた」
「意地張らないの」
「俺は病人じゃない」
「でもすごく疲れてる」
美代子は引く気がないようだ。ハンカチを湯に浸して全体を濡らし、絞る。湯のしたたる音が妙に響き、静かな部屋にぬるりとした空気が漂う。