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滲む墨痕
第4章 一日千秋
さまようその腕を、男はとっさに掴んだ。身をかがめて他方の腕も取り、その両方を自身のほうにぐいと引っ張り上体を反らせる。女の腰上にまくられていた布地はずり落ち、その背を飾る白地の帯の太鼓結びがわずかに歪んだ。
野島屋の顔としての制服を脱がせないまま、両腕の自由を奪い、最奥を穿(うが)つ。女壺はさらにその身を縮め、肉杭を締め上げた。呻いた男が導かれるように一気に抽送を速めれば、蜜まみれの肌がぶつかる音とともに、悲鳴にも似た女の嬌声が小刻みに跳ねる。
「ああっ! せいっ、じ、ろおぉっ……」
「み、よ……っ、美代子、美代子!」
なにかを振り切るように、ついにこの口からその名を放った直後、ひゅう――と、どこからともなく風の通り過ぎる音が聞こえた。
長い間くすぶらせてきた想いも、醜い執念も、この身からすべてを解き放つ。
深い欲望の渦巻く果ての泥沼へと、誠二郎はありったけの精神を注いだ。
――俺だって、ずっと、あんたが欲しかったんだよ。
一日千秋(いちじつせんしゅう)=一日が千年にも長く思われる意から、非常に待ち遠しいこと。