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滲む墨痕
第5章 尤雲殢雨
全身がこわばるのを自覚したとき、不意に抱きすくめられた。
「……っ、せん、せい」
身体をすっぽりと覆う力強い腕から、あたたかな優しさが染み込んでくる。
「ごめん」
耳をくすぐる、熱い吐息まじりの声。ぞくりとして息を呑むと、身体が少し離された。
その手で今度はしっかりと両頬を包んできた藤田は、目を見てもう一度「ごめん」と苦しげに呟いた。その深いまなざしに心奪われて放心していると、また激しく抱きしめられた。
その謝罪にどのような意味が含まれているのか、今は考えたくない。たとえすべてが偽られたものだとしても、今感じているこのぬくもりだけは、きっと――。
真意のわからない男の胸の中に身をうずめながら、潤は刹那な安堵を享受することで自身を慰めた。