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滲む墨痕
第5章 尤雲殢雨



 玄関を上がると、あの和室に通された。
 続き間の襖を開けた藤田は、隅にあるファンヒーターを両手で持ち、のそのそと襖の向こうに入っていく。

「こちらへどうぞ」

 その声とともに、かち、と音がして奥の部屋にも明かりがついた。
 一歩踏み入れてみれば、そこはなにも置かれていない和室だった。藤田がヒーターをコンセントに繋ぎ、電源を入れる。

「よかったら今夜はここで休んでください」
「あの、でも」
「ここも生徒たちのために開放している部屋ですが、今はほとんど使うことはありません。ようやく誰かのために使えます」

 彼はそう言って穏やかな笑みを浮かべると、こちらに近づき、襖を静かに閉めた。
 空気の流れが止まった。見下ろしてくる熱の気配に、潤は思わず視線を落とす。

「じゃあ……少し待っていて」

 降ってきた声に顔を上げる。すでに背を向けている藤田が、頭をかきながら廊下側の襖を開けて出ていった。

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