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滲む墨痕
第5章 尤雲殢雨
意を決したように、彼は言った。
「薄く残っているから」
そうして、するりと頬を撫でる指。
瞬間、頬から伸びる筆管、その先にある恐ろしい眼差しが甦り、潤は悟った。洗い流したはずの墨痕は、完全には消えていなかったのだ。
手のひらで頬を覆い、俯く。「見ないでください」と声を漏らし、一歩足を引いて藤田から離れた。しかし追うように距離を詰められ、両肩をそっと掴まれた。
一度掛けられた作務衣が、その手によってふたたび静かに取り去られた。作務衣が畳の上に落ちると、持っている羽織とTシャツもまた取り上げられた。
纏う空気を艶めいたものに変えた藤田は、潤が着ている長羽織に手をかけた。
「や……せんせ……」
潤の困惑を無言でかわし、胸元の羽織紐を丁寧に外して脱がせる。すとんと落とされた羽織はそのままに、彼は帯締めに指を這わせた。両脇で帯と帯締めの間に挟み込んである端部を引き抜き、容易にほどいてしまう。