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滲む墨痕
第5章 尤雲殢雨
黒地の小紋を引き立てるような、白地に一歩控えた有職文様がほどこされた帯。それを鮮やかに飾る縹(はなだ)色の帯締めが、はたりと畳に落ちる。次いで、浅縹の帯揚げが引き抜かれた。
大きな手は、そこで止まった。これ以上は帯の内側に手を入れる必要がある。
遠慮がちに顔を上げてみると、熱い視線にぶつかった。その奥にある企みを見抜こうとしても、力強い眼差しを疑うことができない。
「昭俊さん……」
すがる思いでその名を呼ぶと、彼がわずかに口角を上げ、静かに頷いた。その笑みにとうとう拒絶する理由を奪われた潤は、吸い込まれるようにその目を見つめながら小さく頷き返し、自ら帯の中に手を入れた。
帯枕の紐の結び目を引き出し、ほどけば、太鼓結びが背中から一気に崩れ落ちる。ずり下がりつつも腹部に巻きついている残りを男の無骨な手が掴んで剥がせば、潤はそれに応えるように伊達締めと腰紐をほどいた。