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滲む墨痕
第5章 尤雲殢雨
「こちらを向かなくていいから」
後ろから囁かれ、きつく閉じた腕をさすられる。熱い手にほぐされ、じわじわと火照りはじめる肌と、湿り気を帯びてくる呼気。
潤がわずかに腕の力をゆるめた隙に、その指を滑り込ませた藤田は薄布をずらし胸をはだけさせた。
見下ろした白肌は、よく見るとやはりうっすらと色を残している。しっかり洗ったつもりでも、気が動転し見落としていたのかもしれない。
これ以上は見られたくない。そう思った潤は、襦袢をひらく藤田の手を強く握り、自身の胸に押しつけた。
すると、彼は他方の腕ですべてを包み込むようにして潤を抱きすくめた。
頭上に降ったのは、一つの熱い吐息と、厳然たる声だった。
「僕が洗います。風呂に入りましょう」