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滲む墨痕
第5章 尤雲殢雨
自身の醜態を思い知り、潤は胸元に腕を押しつけて藤田に背を向けた。急に情けなくなる。
「潤さん」
優しく名前を呼ばれても、ただ黙って首を横に振ることしかできない。
彼に対する冒瀆だ、と思った。墨で弄ばれた痕を残す肌を晒すことなど、書家である彼に対して無礼極まりない行為だ。
「見せてください」
固く請われ、背筋に緊張が走る。
「……僕に、見せて」
その低い声は怒りを心に押し込めているかのように、かすかに震えた。
「す、すみません……」
要求に応えられるはずもなく、かろうじて声を絞り出せば、そっと腕を掴まれた。そのあたたかな手は腕を撫で伝い、胸の前で交差させた手を握ると、そのまま身体ごと潤を抱きしめた。