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滲む墨痕
第2章 顔筋柳骨
その話に聞き入りながらも、潤は思った。この人は“下手”を“個性”だと褒めてフォローしてくれているに過ぎない。きっとそうに違いない。
しかし、藤田はこうも言った。
「とはいえ、書写の基礎を身につけてこその書道ともいえます。それを踏まえたうえで、とてもいい字ですよ」
潤は納得した表情を繕ってみせたが、一方の藤田は困ったような笑みを浮かべた。
「つまり、僕はあなたの書を美しいと思ったということです」
「……っ」
「もっと専門的に説明することもできますが、納得してくれないでしょう?」
息を呑んだ潤に、藤田は優しい眼差しを送る。
「わかってくれましたか。僕の評価を」
「あ、ありがとうございます。でも、ここが少し滲んでしまいました」
潤は、『初』の三画目を指差す。
「先生の作品のように力強く書きたかったのですが、失敗して……」