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滲む墨痕
第2章 顔筋柳骨
藤田が、わずかに片眉を上げた。
それを目にした潤は、なんて失礼なことを言ってしまったのだ、と激しく自分を責めた。「あなたの真似をしようとして失敗しました」と言ったようなものだ。どれほど練習しても、たとえ逆立ちしたって、プロの書家である藤田のように書けるわけがないのに。
美代子によく言われるのだ。「過度の謙遜はかえって相手に失礼よ」と。女将にも、「言葉の選び方を間違えないように」と言われたことがある。
弁解しようと潤が唇をひらくのと同時に、藤田が言った。
「僕の書をご覧になったことが?」
その表情と声は怒りを示してはいないものの、そこには鋭い威厳が鎮座していて、じりじりと迫ってくる。
「八月に、先生の個展で……」
おずおずと答えると、藤田は目をみひらいて口角をぐっと上げた。
「ありがとう」
「え?」
「そうかあ、見てくれたのか」