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滲む墨痕
第2章 顔筋柳骨
「時間があるときで構いません。だから授業料はいりません。いつでも遊びにきてください」
「でも、本当にいつになるかわかりませんし」
「いいですよ。月に一度でも、三ヶ月に一度でも」
その厚意がなにを意味するのかわからない。だが、潤はそれに甘えたいと無性に思った。ほんの少しだけ、願望を言葉にしてみたくなった。
「もしできるなら、自分らしい字を追求してみたいです」
「それなら、次からは臨書の学習をしてみましょうか」
「臨書?」
「古典を手本として技法や筆遣いを学びます。自分の書風を身につけるために必要不可欠な練習方法です」
言うだけならきっと許される。潤は心の中でそう自分に言い聞かせた。
「……やってみたいです」
「うん」
藤田が満足げに頷いた。すぐに苦笑を浮かべ、顎をさする。
「次は髭をしっかり剃っておきますね」