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滲む墨痕
第2章 顔筋柳骨
しばらくして、眉を下げた藤田は「そうかあ」と深いため息のような声を発すると、突然その両手で潤の手を包んだ。
「……っ」
「ありがとう。潤さん」
分厚くてごつごつした、大きな手。あの個展で感じた書家の力強いイメージが、まさにこの手の中にあった。
ああ、やはりあれを書いたのはこの人なのだ、と潤は改めて本能的に感じ取った。
「また来てもいいですか、先生……」
思わず口走ったあと、自分の声が妙に色づいていることに気づく。包まれている手を心持ち引き寄せられた気がして、冷静に言い直す。
「次は体験ではなくて、学びに。月謝はおいくらですか」
瞬間、誠二郎と女将の顔が浮かび、潤は藤田の手を振りほどいた。
「やっぱりだめです。……今ちょっと家が忙しいもので」
支離滅裂な自分を呪いながら「すみません」と小さく呟くと、藤田がおかしそうに顔をゆるめ、肩を揺らしてくすくす笑いだした。