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滲む墨痕
第3章 雪泥鴻爪
ごくシンプルな服装がその穏やかな雰囲気を引き締め、彼の凛々しさを引き出している。整えられた黒い髪やコートの肩には雪の粉がついている。この寒い中、藤田もここを散策していたのだろうか。
「宴会はいいんですか」
潤が尋ねると、藤田は苦笑する。そうして一言、「あなたこそ」と呟いた。事の経緯を説明するわけにもいかず、潤は口をつぐむ。
「やはりあなたは、野島屋の野島潤さんだったのですね」
旅館とは関係ないと嘘をついたことを咎めるわけでもなく、優しく諭すようでもなく、ただ静かな声が降った。
潤は、消え入りそうな声で「はい」と返す。
「でも、もう……」
そうではなくなるかも、と思わず口走りそうになり、唇を噛みしめる。すると藤田は困ったように笑った。