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官能書道/筆づかい
第1章 蔵鋒
 八年前に伝統書道の世界を離れ、独自の道を歩み始めてからも、鹿島は涼子の動向を常に意識していた。
 めきめきと腕を上げ、書壇で認められてゆく姿を、我ことのように嬉しく思った。

 しかし、涼子がIT関連の青年企業家と婚約したと聞いた時、鹿島の胸を襲ったのは、粘つくような暗い情念だった。
 自分でも驚くほどの嫉妬心に、気も狂わんばかりとなった。

 それからである、探偵を雇って涼子の身辺を探るようになったのは。

 弱みを見つけ、婚約を破談させようというのが狙いだったが、思わぬ事実を知ってしまったというわけだ。

 鹿島は幻滅と同時に、ひりつくような欲情を感じた。

 澄ました仮面を徹底的に剥いでやりたいと思った。
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