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官能書道/筆づかい
第1章 蔵鋒
 涼子が津路に眼で合図すると、若者は静かに立ち上がり、もう一度、頭を下げて部屋を去った。

「それで、今日はどんな御用で?」

「相変わらず、切り口上ですねえ」

 鹿島は頭をかく。
 バックスキンのジャケットの胸ポケットから写真を取り出した。

「これに見覚えがあるでしょう?」

 応接机の上に置き、そっと指で涼子の方にすべらせる。

 その写真を、涼子は黙って見つめた。
 手に取ろうともせず、表情もかえない。

 少したって、鹿島の方を見て、

「これが、なにか……」

「おとといの昼過ぎ、渋谷道玄坂――といえば思い出しますか?」

 涼子の貌がわずかに蒼ざめた。

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