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いつかの春に君と
第1章 桜のもとにて君と別れ
春海の母親…小春は、春海に何か聞かされたのか、鬼塚の方を見上げた。
咄嗟に、貌を背ける。
小春は春海に手を引かれながら、鬼塚の方に歩いてきた。

…戦場でだってこんなにも動揺したことはない…。
己れの心臓の音が耳障りなほどに響き渡る。
耐えきれず、そのままその場を去ろうと踵を返した時…。
「…あの…」
…背中に優しい声が届いた。

恐る恐る振り返る。

…小春だ。
間違いない。
鬼塚は確信を持った。

彼女が十六の年に、偶然に言葉を交わした。
…あの頃からほとんど変わっていない。
だから分かった。
「…突然、お声をお掛けして申し訳ありません。
先ほど息子を助けて下さったと伺いました…」

…小春の声だ…。
十六の時に交わした声と変わっていない。
もっともあの時は
「…あの…。以前にお会いしたことがありましたかしら?」
の一言だったが…。
たった一言を今でも鮮明に覚えている。

鬼塚は目の前の妹を食い入るように見つめた。
…品の良い藤色の友禅小紋に暖かそうなベージュのカシミヤのショールを肩にかけている。
艶やかな髪を綺麗に結い上げ、鼈甲の髪留めを挿していた。
小春がとても豊かな生活を送っていることが手に取るように分かり、鬼塚は心底安堵した。

…透けるように白い肌、優美な眉、黒眼勝ちの大きな瞳、長く濃い睫毛、形の良い鼻、可憐な唇は綺麗な珊瑚の色をしている。

瞬きするのも惜しくて、じっと見つめる。
「…あの…」
余りに凝視する鬼塚に不思議そうに眼を瞬かせた。
鬼塚は慌てて口を開いた。
小春に俺を気づかせてはならない。
「いや、なんでもない。…たまたま通りかかって、注意しただけだ」
目の前の男が言葉を発してくれたことに、ほっとしたように小春は微笑んだ。
胸が締め付けられるような、懐かしい笑い方だった。
「いいえ。息子はとても怖かったところを貴方様に助けて頂いて、嬉しかったと感謝しておりました。私が来るまで一緒にお待ち下さったとか…。
本当にありがとうございます」
深々と頭を下げる小春に、鬼塚はぎこちなく答える。
「…いや、そんな…礼を言われるようなことじゃない。
ただ…ここはあんまり安全な地域じゃないから、あんた達みたいな良いところのひとは気をつけて歩いた方がいい」
小春はまた懐かしい香りがする微笑みを浮かべ、鬼塚を見上げた。
「…ご親切にありがとうございます…」

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