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いつかの春に君と
第4章 君が桜のとき
鬼塚は小春の夫…岩倉の手を握る。
…温かく大きな手だ。
鬼塚の黒いアイパッチを見ても驚きも怪訝そうな貌もしない。
自分は名乗ったが、鬼塚の名前を尋ねることはしない。
…穏やかそうな紳士に見えて、意外に肝が据わっているな…。

「…たいしたことじゃない。気にしないでくれ。
…けれど、奥さんや息子さんみたいに見るからにお金持ちの人間が、こんなところを供も連れずに通うのは、あんまり感心しないな。特に夕方は、この辺りは物騒だ」
鬼塚はずっと気になっていたのだ。
浅草は様々な人間がいる。
まだまだ敗戦後の混乱が激しい東京だ。進駐軍の米兵による婦女暴行事件も問題になっている。
特に浅草のような下町には、スリや窃盗団など、悪の温床になっていたのだ。


小春は少し困ったような貌をした。
「…ええ…。そうなのですけれど…実は先日の怪我で家の乳母が足を痛めてしまって…。外出がままならなくなってしまいましたの。家のメイドもまだ秋田から来たばかりの新人なので、知らない東京を歩かせるのは心配ですし…」
岩倉がきっぱりと言う。
「確かに笙子さん一人では危険だな。僕がいつも見には来られないし…。やはり下男をもう一人雇おう」
「そんな…。贅沢ですわ。まだまだほかのおうちは苦しいところを節制などされているのに…。
大丈夫です。気をつけて送迎いたしますので…」
思わず鬼塚は口を開いていた。
「俺で良かったら、用心棒代わりに坊ちゃんを送迎するぜ」

二人が驚いたように鬼塚を振り返った。
鬼塚は慌てて、言い訳のような説明を始める。
「…いや、俺はどうせ暇だし…。あんた達と坊ちゃんが良かったら…の話しなんだが…。俺みたいな人相の悪い男が護衛していたら、坊ちゃんにもあんたにも誰も手を出さないだろう?」

小春が不意に吹き出した。
そのままころころと笑い出し、止まらない。
岩倉が意外そうに眼を見張る。
鬼塚はおどおどと声を掛けた。
「…お、おい…。俺は可笑しなことを言ったか?」
小春が笑いを堪えながら鬼塚を見上げた。
「ごめんなさい。…だって…人相が悪いなんて…可笑しくて…。
…徹さんはとても綺麗なお貌をしていらっしゃるのに、そんなことを仰るのですもの…」
…そしてそのままにっこりと笑うと、迷いのない眼差しで、岩倉に相談することもなく答えた。
「ぜひ、お願いいたしますわ。ご厚意に感謝申し上げます」



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