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いつかの春に君と
第4章 君が桜のとき
その夜、帰宅した鬼塚を待ち受けていたのは美鈴だった。
珍しく拗ねたような、怒ったような眼差しをして鬼塚を見た。
「どうした?」
暫く黙っていたが、我慢しきれなくなったかのように、鬼塚に詰め寄った。
「…今日…仲見世のカフェで、綺麗な女の人とおったよね?」
…小春のことかと鬼塚は合点がいった。
「誰なん?あのひと」
鬼塚は紬の着物を脱ぎながら言葉少なに答える。
「…ちょっとした縁で知り合ったひとだ。
今、用心棒をしている」
「手を握っとったよね⁈どういうことなん⁈」
…美鈴に小春は妹だと説明する訳にはいかない。
どこから漏れるか分からないからだ。
「…あれは…何でもない。お前が邪推するようなことは何もない。それにあのひとは子どももいる人妻だ」
「あんな…綺麗な…品のええ奥さんとどう知り合うん?…何でもないなら何で手なんか握るん?…」
美鈴の瞳に、見る見る内に涙が盛り上がる。
化粧っ気のない白い素顔は年よりも随分幼く見えた。
「あのひとが…好きなん?あのひともあんたの手ぇ握っとったやない?」
鬼塚は美鈴を見下ろし、静かに口を開いた。
「…あのひととは、何でもない。
けれど、お前が信じられなければ仕方がない。
…俺が嫌になったのなら、出て行く…。
俺は…お前に何もしてやれないからな…」
黒い長着に再び紬の着物を羽織り、身支度をする。
そのまま部屋を出ようとする鬼塚の背中に美鈴がぶつかるように抱きついた。
「いかんといて…!何処にもいってはいやや…! 」
「…美鈴…俺は…」
何も言わすまいと、背中にしがみつく。
「あんたがうちに惚れてないことくらいわかっとる…。…あんたがあの綺麗なひとを好きなことも…。
あんた…あのひとに会うようになってからほんまに嬉しそうやったもん…。生き生きして…楽しそうで…。
カフェでも…うちには見せたことのないような顔で笑っとった…。
…だから…あんたがあの綺麗なひとのこと、好きなのは何も言わなくてもわかっちょったよ…。
…それでもええ。あんたがあのひとを好きでもええ…。
何処にもいかんで…ここにおって…。
うちのそばにおって…うちはあんたが好きや…!大好きなんや…!」
背中の美鈴が啜り泣く。
…俺は…女を泣かすことしかできないのか…。
暗澹たる思いが胸に逼る。
珍しく拗ねたような、怒ったような眼差しをして鬼塚を見た。
「どうした?」
暫く黙っていたが、我慢しきれなくなったかのように、鬼塚に詰め寄った。
「…今日…仲見世のカフェで、綺麗な女の人とおったよね?」
…小春のことかと鬼塚は合点がいった。
「誰なん?あのひと」
鬼塚は紬の着物を脱ぎながら言葉少なに答える。
「…ちょっとした縁で知り合ったひとだ。
今、用心棒をしている」
「手を握っとったよね⁈どういうことなん⁈」
…美鈴に小春は妹だと説明する訳にはいかない。
どこから漏れるか分からないからだ。
「…あれは…何でもない。お前が邪推するようなことは何もない。それにあのひとは子どももいる人妻だ」
「あんな…綺麗な…品のええ奥さんとどう知り合うん?…何でもないなら何で手なんか握るん?…」
美鈴の瞳に、見る見る内に涙が盛り上がる。
化粧っ気のない白い素顔は年よりも随分幼く見えた。
「あのひとが…好きなん?あのひともあんたの手ぇ握っとったやない?」
鬼塚は美鈴を見下ろし、静かに口を開いた。
「…あのひととは、何でもない。
けれど、お前が信じられなければ仕方がない。
…俺が嫌になったのなら、出て行く…。
俺は…お前に何もしてやれないからな…」
黒い長着に再び紬の着物を羽織り、身支度をする。
そのまま部屋を出ようとする鬼塚の背中に美鈴がぶつかるように抱きついた。
「いかんといて…!何処にもいってはいやや…! 」
「…美鈴…俺は…」
何も言わすまいと、背中にしがみつく。
「あんたがうちに惚れてないことくらいわかっとる…。…あんたがあの綺麗なひとを好きなことも…。
あんた…あのひとに会うようになってからほんまに嬉しそうやったもん…。生き生きして…楽しそうで…。
カフェでも…うちには見せたことのないような顔で笑っとった…。
…だから…あんたがあの綺麗なひとのこと、好きなのは何も言わなくてもわかっちょったよ…。
…それでもええ。あんたがあのひとを好きでもええ…。
何処にもいかんで…ここにおって…。
うちのそばにおって…うちはあんたが好きや…!大好きなんや…!」
背中の美鈴が啜り泣く。
…俺は…女を泣かすことしかできないのか…。
暗澹たる思いが胸に逼る。