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いつかの春に君と
第4章 君が桜のとき
「…美鈴…。俺は…お前を幸せにしてはやれない…」
苦しげな独白のような言葉に、美鈴は首を振る。
「…ええんよ…。そんなこと…」

鬼塚は美鈴を振り返り、その小さな貌を両手で包み込んだ。
…座敷のない日は緩やかな束髪に結っていて、小作りで愛らしく…しかしどこか寂しげな顔立ちに良く似合っていた。
「…本当の俺をお前は知らない…」
…上官の命令のままに、或いは自分の意思で粛正した人々…。
銃声、彼らの悲鳴が蘇る。
鬼塚の貌が歪む。

美鈴は瞬きもせずに鬼塚を見上げる。
優しい声が続く。
「…ええんよ、知らなくても…」
「…知ればお前はきっと俺に失望する…」
…苦さの滲む声…。
鬼塚の手に手を重ねる。
「そんなことない。失望なんかせん。どんなあんたかて、うちは好きや。…大好きや」

…だから…
と、美鈴は男の手に頬を寄せる。
「…どこにもいかんで…。ここにおって…。
ほかのひとを思っててもええから…ここにおって…」

鬼塚の指が、美鈴の涙に濡れた涙ぼくろをなぞる。
「…綺麗だな…」
美鈴は泣き笑いの表情を浮かべ、その震える唇を男のそれに押し当てた。
「…抱いて…うちのこと…愛してなくてもええから…今は…抱いて…」
男が強く美鈴を抱き寄せる。
荒々しく唇を奪い、押し倒す。
か細い女の身体を砕けんばかりに抱き竦める。
「…美鈴…」
美鈴は必死でしがみついて、掠れた声でかき口説く。
「好き…あんたが…好き…」

柔らかな女の肉を開きながら、鬼塚は男のことを思い出していた。
男を喪ってから、鬼塚は同性と寝ることはなかった。
全く欲望を覚えなかったからだ。
…まるで暗く生暖かい沼に沈み込むような淫靡な快楽…あれはあの男に対してのみ覚えたのだ。

鬼塚が女を抱くのは、憂さ晴らしだった。
分かりやすい悦楽に身を投じている間は、鬱鬱とした気持ちを忘れることが出来た。
愛情は、なかった。

…美鈴の手が鬼塚を抱く。
まるで鬼塚の荒んだ心ごと抱くように、優しく…しっかりと抱く。
美鈴の体内は温かく心地良かった。
けれど鬼塚を抱く手の方が、ずっと温かかった。

心の中の枷が少しだけ緩んだような気がした。
…気のせいだ。
感傷的な気持ちになる自分を戒めるように首を振り…しかし、鬼塚は美鈴の身体に甘く溺れていった。








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