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いつかの春に君と
第4章 君が桜のとき
「ああ、ちいちゃん。まだこちらにいらしたのね。良かったわ」
岩倉が宿泊している帝国ホテルの部屋をノックもせずに入ってきたのは、父親の妹…岩倉の叔母の伽倻子であった。
シネマ女優のような華やかな真紅のドレスに銀狐のストール、パーマネントを当てた髪は艶やかにカールし、節約節制を叫ばれている世間のことなど何処吹く風といった風情だ。
父親と歳が離れている妹とはいえ、もう四十は迎えている筈だが、その明るい美貌はせいぜい二十代半ばにしか見えない。

岩倉は苦笑しながら伽倻子を丁重に部屋に招き入れる。
「伽倻子さん、僕がいたからいいようなものの…いなかったらどうするつもりだったのですか?学会は終わったので、午後の汽車で京都に帰るつもりだったのですよ。
…それに…もうすぐ三十になる甥っ子に向かって、ちいちゃんはやめてください」
伽倻子は白く美しい手を優雅に差し出し、可笑しそうに笑った。
「…私にとって貴方はいつまで経っても可愛い可愛いちいちゃんだわ」


岩倉はレースの手袋に包まれた手に敬愛を込めてキスをし、提案する。
「下のダイニングで昼食をご一緒して頂けますか?東京の食糧事情も厳しくなってきましたが、さすがにここはまだ伽倻子さんを満足させられるメニューが揃っていますよ」

東京の大財閥の御曹司に嫁いだ伽倻子は美食家だ。
滅多なものをご馳走するわけには行かない。
すると伽倻子は大きな眼を見張り、岩倉の腕を掴んだ。
「あら、私はランチしにきたのではないのよ。
…ちいちゃん。貴方のお力を借りたいの。貴方でなくては解決できないわ。私と一緒に来てちょうだい。
そして、心を病んだ可哀想な…それはそれは美しいラプンツェルを救って差し上げてちょうだい」

伽倻子は昔から現実離れした話し方をする。
心理学を専門に研究し続ける岩倉ですら、伽倻子の思考回路にはお手上げであった。

岩倉はため息をつきながら尋ねた。
「伽倻子さん、お願いですからもっと分かりやすく始めから説明してください」
伽倻子は拗ねたように紅い唇を尖らせた。
「精神科のドクターにしては察しが悪いわね。
…まあいいわ、早く私に着いてきて。
汽車はキャンセルよ。今夜は我が家に泊まってちょうだい」
そう云い捨てると、伽倻子は香水の香りだけ残して部屋を出た。

岩倉は肩を竦めると上着を羽織り、観念したように伽倻子の後を追ったのだった。

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