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いつかの春に君と
第4章 君が桜のとき
…そうして、岩倉の一ノ瀬家への日参が始まった。
幸い大学は春休みに入り、岩倉も一か月の長期休暇に入るところだったのだ。
伽倻子と彼女の夫が是非にと勧めるので、経堂の伽倻子の嫁ぎ先に滞在することにも決めた。

「…やっぱり私が推察した通りだったわね。
ちいちゃんとあの美しいラプンツェルはきっと恋に堕ちる…。
天啓のように閃いたのよ」
蜜のように甘く伽倻子は微笑った。
「…伽倻子さん…」
岩倉は苦笑し、何も返さなかった。

…岩倉の心中は重苦しかった。
初日の面会のあと、岩倉は笙子の母親から彼女の過去について打ち明けられた。
それは、岩倉の想像の範囲を遥かに超える凄惨な過去であった。

一ノ瀬笙子は夫妻の養女であった。
笙子は幼い頃、預けられていた孤児院の院長である神父から性的乱暴を受けていた。
笙子を助けようとして神父に向かっていった兄は神父に目を潰されるほどの暴行を受け…彼は神父を刺殺した。
笙子はそのショックから、前後の記憶を全て失くしていたのだ。
…兄については実の両親と共に洪水で亡くなったと周囲に話したそうだ。
心と身体に耐え難い傷を受けた少女は幼いながらに無意識の自衛本能を働かせたに違いない。


「…笙子は、友人の誘いで行った教会のミサで、何かしら思い出したに違いありません。
いきなり失神し、病院に運ばれてからは人が変わってしまったかのように無口に鬱ぎ込んで怯えている様子で…。
私たち両親には何も申しませんが、恐らくは大変に苦しんでいるはずです。
…お願いです。岩倉先生、笙子をお助け下さい。
あの子は私たちとは血が繋がってはおりません。
けれど、引き取った時からあの子のことは我が子同然に…いえ、それ以上に可愛がって大切にしてまいりました。
小さな身体と心についた傷を何とか治してやりたいと、その一心で育ててまいりました。
笙子は、本当に美しく優しく賢く…親の欲目を引いてもこの上なく素晴らしい娘に成長しました。
それが今、こんなことに…。
岩倉先生、何とか笙子の呪縛を解いていただけないでしょうか?
笙子を引き取ってから私たちにとって、あの子は生きる希望なのです。
笙子が幸せな人生を歩んでくれたら…他には何も望みません。
…どうか…どうか…岩倉先生…!」

敬虔なクリスチャンだという一ノ瀬夫人は懸命にかき口説くと、声を放って泣き崩れたのだった。

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