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いつかの春に君と
第4章 君が桜のとき
岩倉はゆっくりと…そして静かにドアを閉めた。
そして、笙子の前に座ると、穏やかに語りかけた。
「笙子さん、無理をなさらなくて良いのですよ。
貴女が話したいことだけお話しください。
もう話したくないと思ったら、直ぐに話をやめてください」
笙子は黒目勝ちな大きな瞳をやや潤ませながら、岩倉を見上げ、頷いた。
…笙子が口を開くまでにはかなりの時間を要した。
岩倉は辛抱強く待った。
「…昨年のクリスマスイブのことです。
私は女学校のお友達に誘われて、四谷にある教会のミサに参加したのです。
…教会にゆくのは初めてでした。
…なぜなら、両親が私を連れて行きたがらなかったからです。
両親はとても敬虔なクリスチャンなのに、教会にゆくことは稀でした。
私が付いて行きたがるのを避ける為だったようです。
両親がやむなく教会にゆく時は、私は家政婦とともに家で留守番しておりました。
…ですから、友人とミサにゆくなどと言えばきっと反対されると思いました。
私は両親に内緒で出かけました。
…そうして教会に一歩入った途端…なぜか胸が苦しく…頭が割れるように痛くなったのです…」
そう言う笙子の形の良い眉は苦しげに寄せられ、薄赤い唇は震えていた。
「大丈夫ですか?笙子さん。苦しければ直ぐにお話はやめてください」
笙子は黙って首を振った。
その真剣な表情には、話したいと言う気持ちが満ち溢れているようだった。
「…そんな風に身体が異変を起こす中…私は口に出すのも悍ましいような幻覚を見たのです…。
…それは…黒い制服を着た神父が小さな女の子に無理やり乱暴する幻覚です…。
…女の子は泣き叫び…白い寝巻きは血塗れになっていました…。
その幻覚を見たあと、私は失神してしまったようなのです…」
笙子の全身は震えていた。
「大丈夫ですか?笙子さん…」
貌を覗き込もうとした時、笙子がまるで救いを求めるかのように岩倉の手を握りしめた。
…氷のように冷たい手だった。
「…すみません…先生…、手を握っていてください…。
…私…私…どんなに苦しくても…話したいのです…。
先生に…聴いていただきたいのです…」
溺れるものを助けるかのように、岩倉は笙子の手を両手で包み込んだ。
…そして、優しいまじないをかけるかのように、語りかける。
「私はここにいます。笙子さんのお話を最後まで聴きます。だから安心して下さい」
そして、笙子の前に座ると、穏やかに語りかけた。
「笙子さん、無理をなさらなくて良いのですよ。
貴女が話したいことだけお話しください。
もう話したくないと思ったら、直ぐに話をやめてください」
笙子は黒目勝ちな大きな瞳をやや潤ませながら、岩倉を見上げ、頷いた。
…笙子が口を開くまでにはかなりの時間を要した。
岩倉は辛抱強く待った。
「…昨年のクリスマスイブのことです。
私は女学校のお友達に誘われて、四谷にある教会のミサに参加したのです。
…教会にゆくのは初めてでした。
…なぜなら、両親が私を連れて行きたがらなかったからです。
両親はとても敬虔なクリスチャンなのに、教会にゆくことは稀でした。
私が付いて行きたがるのを避ける為だったようです。
両親がやむなく教会にゆく時は、私は家政婦とともに家で留守番しておりました。
…ですから、友人とミサにゆくなどと言えばきっと反対されると思いました。
私は両親に内緒で出かけました。
…そうして教会に一歩入った途端…なぜか胸が苦しく…頭が割れるように痛くなったのです…」
そう言う笙子の形の良い眉は苦しげに寄せられ、薄赤い唇は震えていた。
「大丈夫ですか?笙子さん。苦しければ直ぐにお話はやめてください」
笙子は黙って首を振った。
その真剣な表情には、話したいと言う気持ちが満ち溢れているようだった。
「…そんな風に身体が異変を起こす中…私は口に出すのも悍ましいような幻覚を見たのです…。
…それは…黒い制服を着た神父が小さな女の子に無理やり乱暴する幻覚です…。
…女の子は泣き叫び…白い寝巻きは血塗れになっていました…。
その幻覚を見たあと、私は失神してしまったようなのです…」
笙子の全身は震えていた。
「大丈夫ですか?笙子さん…」
貌を覗き込もうとした時、笙子がまるで救いを求めるかのように岩倉の手を握りしめた。
…氷のように冷たい手だった。
「…すみません…先生…、手を握っていてください…。
…私…私…どんなに苦しくても…話したいのです…。
先生に…聴いていただきたいのです…」
溺れるものを助けるかのように、岩倉は笙子の手を両手で包み込んだ。
…そして、優しいまじないをかけるかのように、語りかける。
「私はここにいます。笙子さんのお話を最後まで聴きます。だから安心して下さい」