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いつかの春に君と
第4章 君が桜のとき
笙子は頷いた。
小さな蚊の鳴くような声で…それでも必死に語り続けた。
「…その夜から…私は毎晩、その幻覚の夢を見るのです。…毎晩…その神父は恐ろしい表情をして、女の子に乱暴をします…。
逃げようとしても逃げられない…。
…毎晩毎晩、魘されて目覚めます…。
…そうして…ある日…私はある恐ろしい結論に行き当たりました…。
…その少女は私なのではないかと…。
神父に乱暴されたのは…私なのではないかと…」

笙子が不意に肩を大きく喘がせ、苦しげな呼吸を繰り返し始めた。
前のめりに倒れこみそうになる笙子の身体を抱き留める。
…過呼吸だ…!

岩倉は素早く隠しから取り出した白い手巾を、笙子の口に押し当てた。
「ゆっくり呼吸して下さい。…焦らずに…ゆっくり…そう…ゆっくり…上手ですよ…」
か細い背中を優しく撫でる。
笙子の蒼白な貌に生気が蘇るまで…。
忙しない呼吸がゆっくりと繰り返されるようになると、その白磁のような頬に透明な涙が伝い始めた。

「…私は…恐らく預けられていた孤児院で、その神父に乱暴されたのですね…。そしてそのショックから記憶を失くした…。その治療で入院していた病院で一ノ瀬の両親が私を引き取ってくれた…。
…そうなのですね…?岩倉先生…」
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