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いつかの春に君と
第4章 君が桜のとき
岩倉は、鬼塚が出ていった扉を見つめ、深いため息を吐いた。

…あそこまで、深入りした話をするつもりはなかった…。
笙子さんに似た端正な貌を見ているうちについ、出すぎた発言をしてしまった…。

…鬼塚徹は岩倉にとって、笙子と同じく気にかかる存在だ。
経歴も謎めいている。
孤児院から救護院へ…そして憲兵隊の将校の子飼いに…。
少佐まで昇進したのち最前線の激戦地、硫黄島へ…。
日本軍はほぼ全滅と言われていた中、彼は奇跡の生還を果たした…。
あの見る人を魅入らせずにはいられない鮮やかな隻眼と、日陰に咲く白い花のような貌立ち…。
その雰囲気は虚無と倦怠に満ち…それはどこかひとの官能を刺激するようなひやりとした…それでいて甘く艶めいたものでもあったのだ。


岩倉はふっと苦笑する。
…私はとことん笙子さんに繋がりがあるひとに、興味を持ってしまうようだな…。


カーテンを手繰り寄せ、窓の外を見る。
鬼塚の姿は見えなかった。

構内の桜の木が春の夜風に揺れている。
木々全体が夜目にも僅かに薄紅色に染まって見えるのは、その今にもほころびそうな花の蕾だろう。


…あの日の桜はもう満開だったな…。
岩倉は、運命の日の桜を思い出していた。
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