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いつかの春に君と
第1章 桜のもとにて君と別れ
…鬼塚と妹、小春は東北の小さな農村出身だった。
鬼塚が十二、小春が十の年に村を未曾有の大洪水が襲い両親を一度に亡くした。
身寄りがなくなった二人は東京の遠縁を頼り、上京したのだ。

だが、遠縁の者も食うや食わずやの貧しい生活を送っていて、とても二人を引き取ることなど出来なかった。
鬼塚と小春はそのまま教会が運営する孤児院に入ることになった。

…そこはキリスト教精神など名ばかりな、劣悪で酷い環境だった。
暖房器具など何もない石造りの倉庫のような建物に粗末なベッドが並び、たくさんの孤児達が押し込まれていた。
南京虫の這う不潔なシーツ、身体を温めるものは薄い毛布一枚しかなく、それすらも悪賢く強いボス猿のような年長の少年に取り上げられた。
子ども達を監視するシスター達は見て見ぬふりだ。
面倒なことに巻き込まれたくないのだ。

鬼塚は妹を守るように毎晩、小春の小さな痩せた身体を抱きしめ、温めて眠った。
「…お母ちゃん…」
まだ幼い小春は母を恋しがり、よく泣いた。
その都度、鬼塚は小春を強く抱きしめて慰めた。
「泣くな、小春。にいちゃんがいる。にいちゃんがお前を守るから…」
…そう言うと小春は小さく頷き、鬼塚にしがみついてきた。

…どんなことをしても、小春だけは俺が守る。
鬼塚は、孤児院の悪童達の虐めに対抗し、日頃の鬱憤を晴らすように小春を折檻しようとするシスター達に立ち向かっていった。

…だが、忌まわしいあの事件は起こってしまったのだ。
鬼塚と小春の運命を変える…あの呪わしくも悍ましい事件が…。


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