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いつかの春に君と
第4章 君が桜のとき
笙子は明らかに、兄のことを思い出そうとしている。
それが何を生むのかは、精神科医の岩倉すら分からない未知の領域だ。
…しかし…。
あの二人は、運命の絆で結ばれている兄妹なのだ。
そう、やや嫉妬の混じった心で思う。
私が何かをしなくても、笙子は己れ自身で兄を探り当てることだろう…。
…私にできるのは、その時に彼女の側にいてやることだけだ…。
岩倉は今一度笙子の花嫁姿の写真を愛おしげに指先でなぞると、研究室の灯りを消し部屋を後にした。