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いつかの春に君と
第4章 君が桜のとき
翌日、鬼塚はいつものように春海と小春の送迎をした。
稽古帰り、春海が元気に屋敷の中に駆け込むのを確認したあと、口を開いた。

「急なのだが、あんた達の用心棒は今日限りにしてもらう」
小春は驚き、鬼塚を見上げた。
「…え?…何か不都合でもございましたか?」
「…いや。不都合は俺だ」
鬼塚は小春と向かい合い、淡々と続けた。
「やっぱり俺のようなやくざ崩れのような風体の男があんたたちの側にいるのは良くない」
「そんなこと…!」
「用心棒ならきちんとしたひとを雇ってもらえ。
その方があんた達のためだ」
小春の白く華奢な手が、鬼塚の腕を必死に掴む。
「そんなことありませんわ。春海も徹さんにすっかり懐いておりますし…。
いいえ…。
そうじゃないんです」
小春の黒目勝ちな大きな瞳が瞬きもせずに、鬼塚を捉える。
そしてなりふり構わぬ言い方で告げた。
「…私が…私が嫌なのです。貴方ともうお会い出来ないのが、嫌なのです」
鬼塚の隻眼がぎこちなく眇められる。
「何を言っている…。誤解されるような言い方は…」
迷い子になったような瞳で、小春は訴える。
「私…自分でもよく分かりません。愛しているひとは主人一人です。
貴方に恋をしている訳ではありません。
でも…貴方のことは特別なのです。
貴方ともう会えなくなるかと思うと…胸が締め付けられるように苦しくなるのです…。
…貴方とは…一生、ずっと離れたくないのです。
…貴方とは…」
鬼塚の指が、小春の薄桃色の唇を塞ぐ。
「よせ。それ以上、言うな。
あんたは俺のことはもう忘れろ。
忘れて、この幸せな家庭を守ることだけを考えて生きてゆけ」
「嫌です!」

…にいちゃん!うちを置いていかんでね!
幼い頃、鬼塚の不在をとにかく怯えていた…小春の姿が蘇る。
両親に死に別れ、遠縁を頼り東京に出て来た時も…。
小春はどんな時も鬼塚の手を離さなかった。
孤児院に預けられた時も、少しでも鬼塚の姿が見えないと泣き出した。

…俺を忘れても、その孤独と恐怖は記憶に残っているのか…。

鬼塚の胸は張り裂けそうになる。

…しかし…。

ここで小春を突き放さなければ…。

小春はこの先、俺を思い出した時に同じ苦しみを繰り返してしまうのだ。





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