この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
いつかの春に君と
第4章 君が桜のとき
「お前の兄さん達は?」
「兄さん達はGHQ相手のバーや衣料品店を経営したり、通訳を養成したり派遣する会社を経営したりと、大忙しなんだ。
…兄さん達は昔から商才も如才もあったからね。僕と違って…」
特に卑屈になるわけでなく朗らかに笑った。
郁未の小柄だった背はすっかり伸びて、平均より少し高いくらいになっていた。
貌立ちは少女めいてはいるが端正で、髪をきちんと撫で付け、地味だが仕立ての良いスーツを着て、趣味の良いネクタイを締めた郁未はどこから見ても上品な御曹司だ。
青年期を迎え、品格と知性のある落ち着きすら醸し出し始めていた。
…血は争えないな…。
郁未を見ると、そう思う。
戦勝国がいかに日本のこれまでの身分制度や歴史を壊そうと、生まれながらの貴族らしい貴族は存在するのだ。
鬼塚の眼差しに眩しそうに瞬きしながら、郁未は続けた。
「…でね、兄さん達がお前は商才もないし世渡り下手だろうから…て、洗足池近くにある戦時中に名義を変えた別邸を僕にくれたんだ。
それからお父様が軽井沢と那須の別荘を売却したお金を僕に手渡してくれたんだ。
これを元手に商売でもしろ…て。
それで…僕は孤児院と学校を作ろうと思っているんだ」
鬼塚は郁未の意外な言葉に眉を上げた。
「…孤児院と学校…?」
「兄さん達はGHQ相手のバーや衣料品店を経営したり、通訳を養成したり派遣する会社を経営したりと、大忙しなんだ。
…兄さん達は昔から商才も如才もあったからね。僕と違って…」
特に卑屈になるわけでなく朗らかに笑った。
郁未の小柄だった背はすっかり伸びて、平均より少し高いくらいになっていた。
貌立ちは少女めいてはいるが端正で、髪をきちんと撫で付け、地味だが仕立ての良いスーツを着て、趣味の良いネクタイを締めた郁未はどこから見ても上品な御曹司だ。
青年期を迎え、品格と知性のある落ち着きすら醸し出し始めていた。
…血は争えないな…。
郁未を見ると、そう思う。
戦勝国がいかに日本のこれまでの身分制度や歴史を壊そうと、生まれながらの貴族らしい貴族は存在するのだ。
鬼塚の眼差しに眩しそうに瞬きしながら、郁未は続けた。
「…でね、兄さん達がお前は商才もないし世渡り下手だろうから…て、洗足池近くにある戦時中に名義を変えた別邸を僕にくれたんだ。
それからお父様が軽井沢と那須の別荘を売却したお金を僕に手渡してくれたんだ。
これを元手に商売でもしろ…て。
それで…僕は孤児院と学校を作ろうと思っているんだ」
鬼塚は郁未の意外な言葉に眉を上げた。
「…孤児院と学校…?」