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いつかの春に君と
第4章 君が桜のとき
…自分が教育者に…。
そんなこと、考えてもみなかった。

自分のような人間が、子どもを育てたり導いたり出来るなど、到底思えなかったからだ。

…けれど、郁未の話には思わず引き込まれてしまった。
戦争孤児たちが安心して過ごせる孤児院と、様々な高度な教育が受けられる学校作り…。
夢のように素晴らしい仕事だ。

そんな孤児院や学校があったら…。
自分や小春の運命は違っていただろう…。

これからの子どもたちにそんな環境を与えてあげられるやり甲斐がある仕事…。
心が動く。

…だが…
…ふと己れの手を見る。

…この手で、数限りない人々を捉え…そして殺めてきた。
大義と正義という名のもとに…。

戦時中の倫理観や価値観が崩れ去った今、自分はただの殺人者だ…。
殺人者の自分に、子どもたちを育成する資格などない…。

その手が力なく郁未の手から滑り落ちる。
そして、寂しげに微笑む。
「…郁未はすごいな。そんな素晴らしい計画を考えつくなんて…」
郁未が大きな瞳を輝かせる。
「じゃあ…!」
鬼塚の首は力なく振られた。

「俺にそんな神聖な仕事をする資格はない…。
…俺には相応しくない…」
「鬼塚くん!そんなことないよ!言っただろう?戦時中、軍隊に携わったものは全てが戦争犯罪者なんだ。
君だけじゃない、僕もそうだ。
僕たちは歯車のひとつだった。あの頃は…それが正義だと信じて疑わなかった。
けれどそれが言い訳にはならない。
だからこそ、僕たちにはこれからの子どもたちを正しい未来に導く責任があるんじゃないか⁈」
「…郁未…」

…これがあの泣き虫でいつも自分が庇っていた郁未なのだろうか…。
力強く堂々として、そして温かい言葉が鬼塚を圧倒する。
…郁未は戦争によって成長したのだ。

それにひきかえ、俺は…。
俺は、依然として立ち止まったままだ…。
出口のない闇の中をひたすら立ち竦んだまま…。

郁未が、まるで鬼塚の心を読んだかのように、頷いた。
「…一緒に罪滅ぼしをしよう。君だけじゃない。
僕も同じなんだ。…一緒に、今、彷徨って傷ついている子どもたちを助けようよ。それが僅かでも僕たちの贖罪になるかもしれないんだ」
「…郁未…」
鬼塚の心の中に、初めて眩しい光が差し込んで来るのを感じた。

…贖罪…。
…郁未の手を取れば…その道に進むことが赦されるのだろうか…。




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