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いつかの春に君と
第4章 君が桜のとき
鬼塚が口を開こうとした時、店の入り口で女の甲高い叫び声が聞こえた。
「あんた!徹さん!」
振り返ると、芸者姿の美鈴が泣きながら駆け寄ってきた。
鬼塚に必死にしがみつき泣きじゃくる。
「あんた!どこに行ってたん…⁈何日も帰らないから…し、死んどるんじゃないかと思ったんよ…!」
「…美鈴…」
美鈴の温かな涙が、鬼塚の着物に染み入る。

郁未が驚いたように固唾を飲んでいた。
鬼塚は美鈴に郁未を紹介する。
「美鈴…。こちらは嵯峨郁未。俺の古くからの友人だ。
郁未、美鈴だ。…今、彼女の家で世話になっている…」

郁未はやや強張った笑顔を美鈴に向けた。
「初めまして。美鈴さん。嵯峨郁未と申します。
鬼塚くんとは幼年士官学校の同期でした」
紳士らしく丁寧な挨拶をする郁未に、美鈴は慌てて涙を拭い、頭を下げた。
「す、すんません。お見苦しいとこを…。
…岡田美鈴と申します。
…あのう…嵯峨様と仰いますと…もしかして嵯峨公爵様の末のご子息様…?」
郁未は柔らかく笑った。
「もう公爵ではないですよ」
「…うち、数年前に公爵様のお座敷に呼ばれたことがあるんです。…そん時に近衛の将校さんがいらっしゃったのを覚えてます。そん時の坊っちゃまでいらっしゃいますか?」

「そうかもしれません。僕はああいう席が苦手で…。
父に呼ばれたけれど、すぐに失礼しましたから…」
そう如才なく返答し、上着の胸ポケットから名刺を出すと鬼塚に渡した。
「…なんだかお取り込み中みたいだから、僕は失礼するよ。…これ、僕の住所と連絡先だ。さっきの話、是非考えておいてくれ。
それから君の住所を教えてくれないか?」
躊躇する鬼塚の代わりに美鈴が胸元から懐紙を取り出し、何かを書き付ける。
「徹さんは、うちの家にいます。いつでも遊びにいらしてください」
無邪気に差し出す懐紙を、郁未はやや寂しげな微笑みを浮かべながら受け取った。
「ありがとうございます。お言葉に甘えて伺うことがあるかもしれません」
そして静かに立ち上がると、二人分の勘定をさり気なく卓に置き
「…それじゃ、また…。連絡を待っているよ」
そう鬼塚に微笑み掛けると、郁未は店を後にした。
「郁未…!」

追いかけようとする腕を美鈴はしがみつくように抱きしめた。
「…あんた…!もう、何処へもいかんで…!」
…美鈴の綺麗な涙ぼくろはしっとりと濡れていた…。





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