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いつかの春に君と
第4章 君が桜のとき
鬼塚がその女の方に向き直った時…

女はつんざくように叫んだ。
「とうとう見つけたよ!鬼塚!あんたが…あんたが…うちのひとを殺したんだ!
あたしたちの目の前で!顔色ひとつ変えずに!
冷酷非情に!あんたがうちのひとを奪ったんだ!」

…雨に濡れ、髪はざんばらとなり女の貌は定かではない。
だが、その甲高い声には聞き覚えがあった。



…「人殺し!人殺し!うちのひとを…よくも!よくも!」
銃声の音のあと、狂ったように鬼塚に摑みかかろうとしてきた女…。
傍らの子どもの悲愴な泣き声…。
部下の憲兵にあっと言う間に捉えられながらも、女は叫び続けていた。

…「人殺し!人殺し!あんたを許さない!絶対に許さない!殺してやる!殺してやる!」


…数年前…陛下の馬車に大量の爆薬を仕掛けようとしていた罪で逮捕され、護送される寸前に鬼塚に斬りかかろうとして射殺されたアナーキストの妻であった。

女はあの時と寸分違わぬ表情と声で叫んだ。
「やっと見つけた…!あのひとの仇が…やっと討てる!
…殺してやる!殺してやる!…死ね!」

女の震える手の間に、鈍く光る白刀が見えた。
駆け出すのと同時に、小春が鬼塚の前に躍り出し叫んだ。
「やめてください!」

女は夜叉のような目付きで、小春を睨みつける。
「どきな!さもないと、あんたも一緒に道連れにしてやるよ!」
女が短刀を振りかざした。

鬼塚は小春を突き放した。
「早く逃げろ!」
小春を庇うように立ちはだかる鬼塚に、女は焦れるように叫んだ。

「…あんたのせいで、あたしたちは滅茶苦茶になったんだ!あんたはあたしからあのひとを奪った…子どもたちから父親を奪った…死ね!死ね!」
女が体当たりで鬼塚の懐に入り込んだ。
熱く鋭い鮮光のような痛みが走り、鬼塚は一瞬よろめいた。

…流れ出す鮮血が着物を伝い、水溜まりに広がってゆく。
番傘が転がり、小春が短い悲鳴をあげた。

女が鬼塚から離れると同時に全身の力が抜け、地面に崩れ落ちる。
己れの血溜まりが、鬼塚を赤く染めてゆく。


「…にいちゃん!」

…激しい雨音の隙間から一瞬、聞こえたような気がしたのは…幻聴だったのだろうか…。

…小春は…無事だろうか…。
あっと言う間に白く靄が立ち込める意識の中、鬼塚は最後まで、愛おしい妹のことに思いを馳せていた。



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