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いつかの春に君と
第4章 君が桜のとき
…「…にいちゃん…にいちゃん…」

女の子が啜り泣く声が聞こえる…。

…小春が泣いている…。

…なんだ…小春…また泣いているのか…。
近所の子どもに虐められたのか…
…それとも…シスターに折檻されたのか…

起きなくては…
起きて、小春を助けなくては…。

…身体が重い…。
指一本動かせない…。


…ああ、そうか…。
俺は…刺されたのか…。

…俺が射殺したアナーキストの妻に…。

…俺は…死ぬのかな…。

鉛のように身体が重く、地軸に引き込まれるように深い眠りに囚われそうになる。
抗おうとして諦め…ふっと力を抜く。

…それならそれで、仕方ない…。

俺は、それだけのことをしてしまったのだから…。

俺の手は、夥しい血で汚れている。
大義と正義という名の下に…非情に粛清を繰り返した…。
恨まれて、当然だ。


遠い記憶が蘇る。

…お前は生きろ…。
無様でもいい。
生き延びろ…。
生き延びて、妹と再会を果たせ…。
お前の真の人生は、そこから始まるのだ。


男の面影が、鮮明に蘇った。

皮肉なものだ…。
…最近は、貌も思い出せなくなったと言うのに…

…ここにきて、どうして…。

鬼塚は、力なく男に語りかける。

…大佐…。
もう疲れました…。
貴方のところに連れて行ってください…。

…和葉さんが嫌がらなければ…ですけれど…。

男は温かく笑った。

…お前が来る場所はここではない。

目を開けて、しっかり見ろ…。

男の姿が、靄にかかりすっかり見えなくなる。

鬼塚は必死に手を伸ばす。

…待って…待って下さい…!大佐…!

真っ白な視界の中、男の声だけが響く。

…お前が行くべき場所が、そこにある…。
目を開けるのだ…。
己れの目で、しっかりと見つめるのだ…。

もがいた手が、温かく…柔らかな手にしっかりと繋ぎ止められた。

「にいちゃん!」
深い霧に閉ざされた世界の中で、橙色の仄かな明かりが見えた。
重たい瞼を懸命に開ける。

…涙に濡れた小春の美しい貌が鬼塚を見つめていた。

「にいちゃん…!死なないで…!」
握りしめられた手に、小春の温かな涙が滴り落ちる。
微かな唇の動きだけで伝える。
「…泣くな、小春…。にいちゃんが付いているから…」
「…にいちゃん…!」
小春は泣き笑いの表情で、もう一度涙を零した。

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