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いつかの春に君と
第4章 君が桜のとき
鬼塚の刺された傷は急所を外れていた。
刺したのが女で、力が弱かったのが幸いした。

小春の不在を心配した岩倉が美鈴の家を探し当て、ちょうどその時に小春の悲鳴を聞いた。
岩倉は美鈴と共に現場に駆けつけ、すぐさま鬼塚を自分の勤務先である帝大病院に運んだのだ。

鬼塚は優秀な外科医により適切な緊急手術を受け、全治1ヶ月の怪我で済んだのだ。

小春は毎日、片時も離れずに鬼塚を献身的に看病した。
「…春海は大丈夫なのか?母親がそばにいてやらなくて…」
鬼塚の方が気を揉んだ。
小春は、鬼塚の髪を愛おしげに撫でながら微笑った。
「家政婦がおりますし、事情を聞いた岩倉の母が京都から手伝いに来てくれました。
私はにいちゃんのそばについていてあげなさい…て」
鬼塚は苦笑する。
「…お前は良い家の奥様なんだから、にいちゃんはやめろ。品がない」
小春が少し拗ねたように鬼塚を見る。
「だって、にいちゃんはにいちゃんですもの。
…ねえ、苺食べる?岩倉がさっき千疋屋に届けさせてくれたの」
甲斐甲斐しく世話を焼く小春の手を鬼塚はそっと握りしめる。
「…そんなに気を使うな…」
小春は鬼塚の傍らに座り、その手を取り頬に押し当てた。
そして、まるで恋人に愛を告げるように甘く呟いた。
「…私、にいちゃんには何でもしてあげたい。
十数年…会えなかった時間を取り戻したい…。
にいちゃんのそばにずっといたい。
…だから、考えたの」
小春の真っ直ぐな眼差しが鬼塚を捉える。
「にいちゃん、退院したら私の家に来て下さい」







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