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いつかの春に君と
第4章 君が桜のとき
小春が眉を顰め、鬼塚の傍らに膝をついた。
「何を言っているの?
私がにいちゃんを嫌いになるはずないわ」
小春が鬼塚の手を引き寄せ、頬摺りをする。
「にいちゃんは、私を命がけで守ってくれた。
私が記憶を失くしても、私を黙って見守っていてくれた。
にいちゃんは私にとって誰よりも尊いひとなの…」
鬼塚が耐えきれないように手を引き抜き、貌を覆った。
「違う…!そうじゃない!俺は…お前が思っているような綺麗な人間じゃない。
…俺は戦争中、上からの命令で数多くの危険分子やアナーキストの取締まりや…拷問…挙句には処刑にも手を下した」

小春が息を飲む気配がした。
「…いや、上からの命令なんて言い訳だ。
俺は俺の意思で手を下したんだ。
何人も…何人も…!それが正義だと信じ…疑うことをせず…!
戦地でもそうだ。
日本のため…いや、自分が生き延びるため…何人も敵を殺した…!
そんな俺に子どもを育て、導く仕事なんてする資格はない…!
俺は…俺は…人殺しなのだから!」

見えない眼から涙が流れ落ちる。

…人殺し…!人殺し…!
射殺されたアナーキストの妻の憎悪と悲憤の眼差しが蘇る。
鬼塚に背負わされた重い十字架がのしかかり、押し潰されそうになる。

…俺は…人殺しなんだ…。
暗闇とぬかるみに囚われた心は、再び沈み込みそうになる。

…不意に、強い力で柔らかく温かいものに抱き竦められた。
「にいちゃんが人殺しなら、私も一緒に罪を償う…!
にいちゃんの罪は私の罪だから…!
にいちゃんと一緒に亡くなったひとに、一緒にお詫びする…!」
…小春が震えながら…しかし毅然と鬼塚を抱きしめていた。
まるで…母親が傷ついた迷子の子どもを慰め、癒すかのように…。

「…小春…」
小春の涙に濡れた美しい貌がゆらゆらと揺らめく。
鬼塚の涙を白く温かい指先が、優しく拭う。
「にいちゃん、一緒に償おう…。一緒に生きて償おう…。
私たちみたいに親を亡くして行き場を失くした子どもたちを愛情で包んで育ててあげよう…。
それはきっと…にいちゃんにしかできないことだよ…。
…ううん、にいちゃんがやらなきゃならないことだよ…」
「…小春…!」

重い十字架が少しだけ軽くなる。
小春の温かな優しい手が、暗闇に閉ざされた鬼塚を光射す道へといざなう。
その手に縋り付きながら、鬼塚は十二の子どもに戻って声を放って泣き続けたのだった。
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